相続、遺言がメチャクチャで~遺留分欲しいんです!

人が死亡して相続が始まると、これまで仲良かった家族の中で軋みがでてきて、ちょっとしたことでイライラしたりケンカが始まったり、最悪の場合家族がバラバラになってしまったり…ここ数年は、「遺言」をめぐるトラブルも増えていますよね。

そこで、相続が始まる前に私達はどんなことに気をつければいいの?遺言の書き方は?遺留分ってなに?ここであるケースを通して問題になっている事を見てみましょう.

今回のケース(下記の事情以外は考慮しないこととしますね!)

楽田A造さん(らくだ えいぞう55歳)とB代さん(びーよ50歳)のご夫婦には3人の子どもがいてとっても仲良く暮らしていました。
子どもは長女のC子さん(しーこ25歳)長男D太くん(でーた20歳)そして、A造さん50歳,B代さんさん45歳のときに生まれた次女L美ちゃん(えるみ5歳)。もともと子ども好きのA造さんとB代さんは年を取ってからできたL美ちゃんが可愛くて可愛くて仕方ありません。特にお父さんのA造さんはL美ちゃんにデレデレです!

そんなある日、父A造さんが会社帰りの道で、国道を暴走してきた車にひかれて死んでしまいました。
B代さん、C子さん、D太くんはあまりの突然の事態に呆然となりましたが、L美ちゃんは、そうでもありません。仕方ないですよね…5歳ですから~。

そして四十九日も過ぎた頃、C子さんが「実は…」と18歳のときにもらったA造さんの遺言書を出してきました。すると、D太くんも、オレもお父さんから18歳のときにもらった…と遺言書が公証役場にあることを言い出しました。そこで、家族で、D太くんへのA造さんの遺言書を公証役場に確認にいくと、なんと、L美ちゃんへの遺言書もあることが判明しました。

そして、必要な手続きを経てすべての遺言書を見ると、なんとその内容が、C子さんに「全財産を渡す」、D太くんにも「全財産を渡す」と、そして、L美ちゃんにも…同じことが書いてあったのです。
因みに、全財産とは、A造さんの貯金2400万円です。

B代さん   「私には遺言ないの?お父さんひどい!」

C子さん   「18歳のときにお父さんから、大事なことが書いてあるから机の中に大事にしまっておきなさいといわれ、持ってたの~~」

D太くん   「オレは18歳のとき、親父から、「もし何かあったら、公証役場に行って手紙を受け取れ!」っていわれた」

L美ちゃん  「パパ死んじゃったんの?L美淋しい…」

ねぇねぇ、パレ子さん、これってどうしたらいいの?楽田家大丈夫かしら~?

「大丈夫かしら~私もちょっと心配ですぅ…まず、一つずつひもといていきますね…」

遺言ってそもそもどういうものですか?

今回の楽田A造さんが残した遺言書は、C子さん宛のもの、D太くん宛のもの、L美ちゃん宛のものの3通です。

遺言の種類は大きく分けると普通方式と特別方式と2種類あって、その普通方式がさらに自筆証書遺言(民法968条)、公正証書遺言(969条)、秘密証書遺言(970条)の3種類に分かれます。
自筆証書遺言は、遺言する人が自分で書いて封をしたもの、公正証書遺言は公証役場で証人2人同席で、口頭で言って公証人が作ったもの、秘密証書遺言は遺言する人が自分で作って封をして、公証役場に持っていって正式な遺言ですと証明してもらったものになります。

これを楽田家に当てはめると、C子さんのが自筆証書遺言、D太くんのが秘密証書遺言、L美ちゃんのが公正証書遺言となりますね。どれも、有効要件は満たしているようです。

しかし、その内容が3通とも「全財産を渡す」というものですから、3通は矛盾する内容となっていますね。この場合、どの遺言を有効とすべきなのでしょうか?

複数の遺言が矛盾している場合はどうするの?

今回の楽田A造さんが書いた遺言はC子さん宛のものが7年前に、D太くん宛のものが2年前に、L美ちゃん宛のものが1ヶ月前に書かれていました。

遺言は前の遺言と後に書かれた遺言の内容が矛盾する場合、その矛盾するする部分を後の遺言で撤回したことになるんです(民法1023条)。なので、3人の子ども達に宛てられたA造さんの遺言の内容はすべて「全財産を渡す」という内容だったので、C子さん宛の遺言をD太くん宛ので撤回し、D太くん宛の遺言をL美ちゃん宛の遺言で撤回してることになります。なので、L美ちゃん宛の遺言だけが有効となります。

B代さん  「私には一言も残さないで勝手に車にひかれて…そして大事な遺言を軽はずみに連発して…」

C子さん  「L美が可愛いのはわかる!でも、私もD太もお父さんの子どもだよ~なんかおかしくない?」

D太くん  「おいおい、おやじ~オレの学費どうすんだよ~、まだ2年もあんだよ!」

L美ちゃん 「パパ死んじゃったんの?L美淋しい…」

なんともA造さんが亡くなるまで、家族みんなで仲良く暮らしていたのに、A造さんが不用意に書いた遺言で家族に亀裂が入り、仲違いしそうな雰囲気になってきました。なんかかわいそう…。

パレ子さん、なんとかしてください~~~~お願いします!

「はあ~い!100パーセント円満解決とはいかないけど、遺留分という制度があるので、お話しますね」

遺留分ってなんですか?

「遺留分」(民法1028条)とは、法定相続分を侵害された相続人が、本来の相続分の半分を「よこせ~~~!」って請求できることを言います。

ではC子さんの家族は本来の法律通りでいくとその法定相続分は

母B代さん   2分の1、

C子さん    6分の1、

弟D太くん   6分の1

妹L美ちゃん  6分の1になりますので、

具体的な金額は、

母B代さん   1200万円

C子さん     400万円

弟D太くん    400万円

妹L美ちゃん   400万円

を相続するはずでした。

でも、前述のように、A造さんのその場しのぎの遺言が出てきましたので、それぞれの遺留分は法定相続分の半分の

母B代さん    600万円

C子さん     200万円

弟D太くん    200万円を、L美ちゃんに遺留分として請求をすることができます。

妹L美ちゃんは  まず遺言通り2400万円を相続しますが、3人から遺留分の請求があったら、遺留分1000万円引いて1400万円となります。

B代さん   「まったくお父さん子ども達可愛いからって後先考えずに…ホントに困った人だわ」

C子さん   「別に私は働き出しているから、もういいけど…」

D太くん   「オレも大学の学費分はもらえそうだから、まあいいわ…」

L美ちゃん  「パパ死んじゃったの?L美淋しい…でも、うれしい」

まとめ

まったくA造さん、子どもかわいさに不用意に遺言なんて書くから~仲良かった家族に亀裂が入りそうでしょ!ホントに困ったもんだ。

実際の事件はもっともっと複雑なケースが多いので大変です!

今回の事件から学ぶことは、人生先々のことは誰もわかりませんから、少なからず財産がある人は、しっかり遺言を熟慮の上書いて残すか、まったく書かないか、どちらかにした方が良いですね。

それから、一応残された楽田家ではA造さんの遺言を無視して遺産分割協議をすることも可能ですが、遺言と遺産分割協議との関係はまたの機会にお話しますね。